2021-09-01 12:00:00
ARTIST
【作品情報】天野 喜孝
颯
作家:天野 喜孝
作品名:颯(そう)
技法:ジクレ
トータルエディション:350
天野喜孝からのメッセージ
“D”とは1983年の1巻からずっと、もう40年近い付き合いになります。
菊池さんの<吸血鬼ハンター“D”>は、僕が挿絵を描きはじめた頃から描いていて現在も描き続けている唯一の完結していないシリーズ作品です。
一言では表せないくらいの長い時間を寄り添ってきたキャラクターであり、僕自身も思い入れがあります。
きっとそんなことも理由のひとつなんでしょう、ふっとなにかのきっかけで描きたくなるのが“D”です。
最初に浮かんだのは、春の幻想的なイメージ。多分僕の中に春を待ち侘びる気持ちがあったんでしょうね。
それから春の宵、夜桜のようなイメージも浮かんでいたのかもしれません。舞い散った花びらが全てを覆い尽くしているような音のない幻想の世界が浮かびました。
そしてその世界に降りてきました、そっと音もなく。
だからでしょう、この絵の彼は戦ってはいないんです。装丁画や挿絵の“D”はほとんど戦っていますからね。
僕も一読者として原作を読んで心が躍ったシーンを描きますから、どうしても戦うシーンやその前後が多くなります。こういった静寂の中に佇む彼を描いた作品は少ないと思います。
桜に限りませんが、僕の中には散りゆく花に輪廻とか永遠のイメージがあるようです。
咲いて散ってまた咲いて、咲き誇り、色褪せて、降り積もる。そこには儚さや生命、時間さえも降り積もっていくのかもしれません。
そして彼は静かにその場所に立っています。