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【Life Size Gallery】vol.3 正解がないからこそ、楽しみ方が広がり続ける。和田彩花さんが語るアートの魅力。

2021-12-10 10:00:00

COLUMN

【Life Size Gallery】 vol.3

正解がないからこそ、楽しみ方が広がり続ける。

和田彩花さんが語るアートの魅力。

時間の使い方が変わって、おうちにいる時間が増えて。「暮らしを豊かにしたい」そんな気持ちが芽生えた人も増えているであろう今日この頃。花を飾るように、音楽を聴くように、アートに触れてみる。「Life Size = 等身大の」。 Life Size Galleryは、20代の辻愛沙子がさまざまな切り口で、アートと人のリアルをめぐる対談連載です。



今回対談のお相手は、大学院で美術を学ばれ、美術好きを公言されているアイドルの和田彩花さん。アートとの出会いから、どのように好きを見つけ、突き詰めていったのか。その過程から現在も広がり続ける楽しみ方を伺いました。


「知識があるからこそ」のお話になるかと思いきや、アートは自由で気軽な存在だと語る和田さん。絶対的な信頼を寄せるというアートの力とは?


「好き」との出会い方


ーー美術との出会いを教えてください。


和田彩花さん(以下、和田):

デビューしたての頃、群馬県から仕事に通っていて、よく東京駅を使っていたんです。そのときに、丸の内の地下通路に三菱一号館美術館のポスターがずらりと貼ってあるのを目にしていて。 ある日、仕事のスケジュールを間違えて空き時間ができ、一緒にいたお母さんと「あのポスターの美術館に行ってみようか」と時間潰しのような感覚で行ってみたんです。そこで今でも一番好きな画家であるエドゥアール・マネの作品と出会い、衝撃を受けたのがきっかけですね。


辻愛沙子(以下、辻):

偶然の出会いだったんですね。何歳くらいのときだったんですか?


和田:

15歳ですね。高校1年生ながらに美術は美しいもの、綺麗なものというイメージを持っていたんです。ところが展覧会には、人が倒れているだけの絵があったり、黒い絵の具を多用するマネの作品から暗い印象を抱いたりして。美術のイメージが打ち砕かれ、これが芸術になるなんて面白いなと思いました。作品のキャプションを読むと、画家自身の面白さも感じましたね。そこからは1人で美術館に行くようになって、手当たり次第にいろいろな展示に足を運ぶようになりました。


辻:

中世や近代といった時代を問わず、いろいろな作品を?


和田:

最初はそうですね。いろいろな作品を観ていく中で、西洋の絵画が楽しくなって。中世の宗教画を観に行くことが多くなっていきました。高校生の頃はクラシカルな作品ばかり観ていましたね。


辻:

さまざまなジャンルがある中で、好きが見つかるまでのプロセスがとても気になります。たとえば今なら、Instagramで好きなアーティストさんを見つけることもできると思うんです。でも当時はまだSNSもそこまで盛り上がっていませんでしたよね。


和田:

まだスマホがそんなに普及していないときでしたね。美術館に行くと展示のチラシがたくさん置いてあるんです。気になるビジュアルのものをいくつか持って帰り、家で広げて次はどれに行こうかなと選んでいました。


辻:

まずはチラシのビジュアルで選んでいたんですね。


和田:

チラシの裏に紹介や解説があると思いますが、当時は読んでも理解できなかったので、ビジュアルで決めていました。なんとなく気になるものを見つけて美術館に行ってみると、作品はもちろん、いろいろな情報に触れられます。知識が増えていくのも楽しかったです。


辻:

好きを見つけるには、チラシを広げるようにまずはいろいろな作品を見て幅を知るというのも一つかもしれませんね。私は「好きな人の好きなもの」を入り口にするのも一つの方法かなと思っています。たとえば「和田さんが好きだから、和田さんが好きなエドゥアール・マネに興味をもつ」みたいな。アートって知識がないと鑑賞できないイメージもありますが、自由でいいんですよね。


和田:

そう、自由でいいんです。美術史を学びはじめてからも、どう解釈していいかわからないものは、わからないまま接していました。マネはとくに捉えにくいところが多いのですが、むしろ「わからない」部分に魅力を感じたからこそ、追いかけてきた気がします。


もっと気軽に楽しむ一つの方法として、作品を観るときに「もし買うとしたら」「もし部屋に飾るなら」 といったテーマを決めておくのも考えが広がりやすいですよ。

アートは日常の一部


ーー和田さんにとって、美術館や展示はどれくらい身近な存在なのでしょうか?


和田:

私にとっては息をするのと一緒です。普通に生きていく中でずっとあるものなんですよね。


辻:

たとえば「お休みの日に何しようかな?」と思ったら、「とりあえず美術館に行こう!」みたいな。


和田:

そうですね。仕事が早く終わって行くこともあります。あとは、展覧会が閉幕してしまうから早く行かないととか。カフェにコーヒーを飲みに行くのと同じ感覚です。カフェだったら、「時間があるから」とか「季節限定の飲み物が終わっちゃうから」とか、フラッと行きますよね。ぜひ美術館もそのくらい気軽に行ってもらいたいなと思います。展覧会は「ちゃんとした服装で行かなきゃ」というイメージもあると思うのですが、ぜんぜんそんなことないですよ。私もジーンズとかで行きます。


辻:

本当に、日常の中にアートがあるんですね。展覧会に行くことはもちろん、お家でアートを楽しむことはありますか? それこそ作品を購入するのも一つだと思います。


和田:

まだ作品を購入したことはないんです。実は以前まで所有することには抵抗がありました。好きだからこそ、みんなに公開したいという気持ちがあったり、作品の価値と金額の関係性に思うことがあったり。でも、オークション番組に出演したのをきっかけに、意識が変わったんです。購入することで作家さんの応援にもなるんだなとか、思っていたより所有することって気軽なんだなと気づいたんです。今はいつか買えたらいいなと思っています。 作品はまだないですが、図録やポストカードはたくさん家にありますよ。


辻:

意識が変わられたんですね。図録やポストカードはお部屋に飾っているんですか?


和田:

図録は常に部屋に置いてあって、好きなときに見れます。アートに触れる入り口としては、ポストカードを飾るだけでも大きな変化があると思いますよ。私はポストカードを壁沿いに縦に貼るのが好きなんです。たまに順番を入れ替えたり、1年間貼ってみて好きだった作品を残して、貼り変えてみたり。あとはポスターをわざわざ額に入れて飾ったりもしています。


辻:

原画の尊さはもちろんありますが、展示を観て好きだった作品のポスターを額装してみたり、好きな作品のポストカードを貼ってみたりするだけでも、生活の空気が変わったりしますよね。お部屋に飾る作品もまた、いろいろな時代や画家のものですか?


和田:

やっぱり家に貼るとなると、現代アートが好きですね。インテリアや服もそうなんですけど、基本的に身の回りのものはシンプルにしたくて。現代アートの無機質な感じが合うんです。マーク・マンダースさんの彫刻作品やアナザーエナジー展で出会ったベアトリス・ゴンザレスさんの作品のポストカードを飾っています。

(和田彩花さん提供)

辻:

ああ〜! ベアトリス・ゴンザレスさんの作品は私も強く印象に残っています。アナザーエナジー展は何度か足を運んでいて。私はアンナ・ベラ・ガイゲルさんの「月1」という作品を初めて観たとき、泣いてしまいました。今もスマホのロック画面にしています。


和田:

この作品、超良かったです! 感想をうまく言語化できなかったんですけど、すごく良かったです。

アートが持つ力


ーー和田さんはアートに興味を持たれた当初は西洋近代絵画を中心に鑑賞されていて、今は現代美術もお好きなんですね。現代美術にはどんな魅力がありますか?


和田:

現代アートは、より批評性を感じられるところが好きです。もちろん伝統的な絵画も社会と密接に繋がっていると思います。たとえば作品として描かれる対象にその時代の流行が反映されていたり、絵の具が開発されて外で絵を描けるようになったことで風景画が増えていたり。そういった「社会との繋がり」を、現代アートは自分が見てきた現実と重ねられることで、より密接に感じられる気がするんです。 作品に対して綺麗とかどう思うかだけでなく、今の社会で自分がどういう立ち位置なのかを考えさせられるきっかけをもらうことがあり、その体験自体が好きですね。

辻:

現代アートって、その作品が何を伝えたいのかだけではなく、作品を通じて自分自身が社会に対して何を感じどんな意見を持つのかを気づかせてくれる、鏡のような魅力もありますよね。日本の義務教育では、"正解"がある学びはたくさんありますが、答えのないものや自分のスタンスを知る思考は、あまり馴染みがない気がしていて。アートを通じて自分と向き合うことで、自分の声を大事にできるようになると思うんです。


和田:

美術は人に気づきを与える力をすごく持っていると思います。美術にはそんな力があると、私は絶対的な信頼をおいているんです。人が作っているものだからこそ、作品には解釈の余地がたくさんある。だからこそ自分でいろいろ考えてみて、気づきを得ることができます。綺麗、好き、楽しいといった受け取り方ももちろんあると思うのですが、そこで終わらない気づきを得られるのもアートの素晴らしさです。


辻:

アートを鑑賞するとき、「正しい解釈があるんじゃないか」と外に正解を求めてしまったり、敷居を感じてしまうこともあるかもしれません。でも、自分が何のためにアートに触れて、それを観て何を考え何を受け取るのか、その答えはきっと自分自身の中にあるのかなと。美術はどこまでも自由なんだと改めて感じました。


和田:

自由ですね。もちろん世界を知るためにはいろいろな方法があると思います。本を読むとか旅行をするとか。その中でも美術は、手軽に世界やいろいろな考え方を知れて、自分の好みや立ち位置を知る機会にもなる。もちろん、単純に癒されるというのもあります。だからぜひ気軽にアートに触れてみてほしいなと思いますね。

①J.トレンツ・リャド《カネットの階段》

技法:油絵

光を少しデフォルメして描かれている印象主義的な実景がありつつ、ペンキが垂れているような抽象的なところもあり、その組み合わせが素敵だなと思いました。


②スイベル・ギュレー《B0054 PASSION DROPS F4》

技法:油絵

筆の使い方が細かく絵の具を混ぜないタッチから、葉っぱの上に光が揺れ動く様子や光が当たった葉っぱ自体の色が変わっていくのを想像させられます。曖昧に描かれている部分から「この辺って何があるんだろう?」と考える余地があるところも素敵ですね。


③スイベル・ギュレー《6348太陽に愛された大地 F12》

技法:油絵

どんな風景なのかわからないですね。山を登って高いところから見た景色なのか、綺麗な自然を写しとっているカットなのかな。真ん中には奥に続く風景も見えますね。この作品は真ん中から遠くに続いていき、両脇には木が2本とバランスがいい。構図がはっきりしていて綺麗に整っているかと思いきや、表面に赤い絵の具が印象的に散らされているのが素敵です。

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